誰にも言えないことを書く。

 私と兄の話。

 近親相姦ではないけれど、兄妹としては少しおかしい関係の話。

 

 自分でもどう書いていいかわからない、でも吐き出したい、そんな気持ちで書いているので、きっとおかしなことばかりだと思う。

 

 幼いころから私にとって兄は特別だった。

 兄は私より8歳上で、私が小学生のころ、他の兄姉が私の存在を疎ましく思うなか、兄だけが私の遊び相手になってくれた。出かけるときは手を引いてくれて、私の描いたへたくそな漫画を褒めてくれて、兄の部屋に行けば「どうしたの」とすぐに優しく声をかけてくれた。

 私は兄が大好きだった。

 

 私が10代のころ、兄は社会人として立派に働いていた。家が貧しかったのでお小遣いは兄がくれた。欲しいものも買ってくれた。兄にはどれだけ感謝しても足りない。

 やがて家に引きこもりがちになった私を外へ連れ出してくれたのも、兄だった。私の手首の傷に何も言わず、私の好きな本屋へ連れて行ってくれた。兄が運転する車の助手席に乗って、市内の本屋をめぐるのは本当に楽しかった。

 

 たくさんいるきょうだいのなかで、趣味が合ったのが兄だ。いわゆるオタク。私たちはゲームやアニメが大好きで、漫画も貸し借りし(といってもほぼすべて兄のお金で買ってもらったものだった)、毎日遅くまで一緒にゲームをした。

 

 私は兄にべったりだった。文字どおり、体ごと。

 

 幼いころから、座ってゲームをしている兄の背中に飛び乗るのが好きだった。兄は私を背中にくっつけたまま立ち上がってその場で回りだしたり、私の体を簡単に抱えて肩車をしてくれたりした。私は声をあげてはしゃいでいた。

 その感覚のまま、距離感のまま思春期と呼ばれる年代を過ごしてしまったのは、いま考えてもよくないことだったと思う。

 

 10代のころも、私は兄にべったりだった。いつものようにくすぐり合って笑っていたある日、母が言った言葉を覚えている。

「兄妹で何してるの、気持ち悪い」

 気持ち悪い。どうしてそう言われたのか、わからなかった。わかったのは15になってからだ。3歳上の姉の恋人が家に来たときに、私と兄のじゃれ合いを見て、このようにこぼしていたのだという。

「めちゃくちゃ仲いいね、恋人みたい」

 兄と恋人なんて冗談でしょ、そう嫌悪感を覚えた。そして気づいた。いわゆる年頃の兄妹は、互いの体に触れ合うようなことはしないのだと。

 

 だけど兄へ触れることをやめる気にはなれなかった。父親に捨てられ、好きな人にもふられた私にとって、兄は唯一、男の人のぬくもりを与えてくれる存在だった。

 男の人のぬくもりはとても心地よかった。わがままも甘えることも弱音を吐くことも許してくれる。できないことをかわりにしてくれる。

 しかも無償だ。体もお金も使うことなく、無償でほしいものを提供してくれる。毎日寂しくて仕方なかった私が、兄と距離を置くわけがなかった。今思うと、馬鹿だしそれこそ気持ち悪い。

 

 何より兄と私は似ていた。友達も少ない、恋人もいない、人見知り、コミュニケーション能力に欠けてる、要するにリア充になれないタイプ。他の兄姉がリア充だったので、いっそう「私の気持ちをわかってくれるのは兄だけ」だと思うようになった。そんなことはなかったのに。

 

 話が前後するけど、父親に捨てられたのも、兄との絆(というほど美しいものではなかったけど)を深めるひとつのきっかけとなった。父がいてくれたなら、あのころの私があれほど兄へ依存することはなかっただろう。

 

 17歳の私がたったひとりで留守番をしていた夜だった。

 父は突然、いつもより早い時間に帰宅して、荷物をまとめはじめた。

「お父さんは家を出ていくことにしたから」

 そう言われた夜のことは、きっと一生忘れないと思う。

 

 

今日はここまで。そのうちつづく。